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【イベントレポート】CES & NRF 2026 報告会:リテールにおけるAI実装の現在地と顧客体験の再定義

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Feb.19.2026
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Lazuli株式会社は、世界最大級のテック・リテールイベント「CES 2026」および「NRF 2026」の報告会を開催しました。AIが「未来の技術」から「現場に実装されるべき力」へと進化した今、リテール業界が直面する地殻変動の最前線とは?事業会社の収益や顧客接点におけるAI活用の「実」を、プロの戦略的視点から解き明かしたレポートをお届けします。

2026年1月、ラスベガスの「CES」とニューヨークの「NRF(Retail’s Big Show)」という、テック・リテール両界のメガイベントが示した共通のメッセージは極めて実務的、かつ切迫感に満ちたものでした。

掲げられたテーマは「The Next Now(次なる未来は、今ここにある)」。AIはもはや語られるべき「未来の技術」ではなく、今この瞬間にビジネスの現場に実装されるべき力へと完全に進化を遂げています。

本報告会の冒頭、Lazuli代表の萩原は、参加者4万1千人超、出展企業1,000社以上というNRF 2026の圧倒的な熱量に触れ、AI活用が事業会社の収益や顧客接点において具体的な「実」を結び始めている現状を強調しました。本記事では、リテール業界が直面している地殻変動の最前線を、戦略的視点から詳しく解説していきます。

生成AIとデータ活用が変える「購買プロセスの消失」

今回のNRFで最大の衝撃となったのは、GoogleのCEOサンダー・ピチャイ氏の登壇でした。これは、検索プラットフォーマーがリテールの核心領域へ不可逆的に踏み込んできたことを象徴しています。

「Search-to-Basket」:検索から相談、そして決済へ

Googleが発表した「UCT(Universal Commerce Transformation)」は、従来の検索・購買行動を根底から覆すプロトコルです。これまで一般的だった「キーワード検索からページ遷移、カート投入」というステップは消失し、Google Gemini等のAIエージェントとの「対話・相談」を通じて決済までが完結する「ゼロクリック決済」へと移行します。

これは、Googleが「リファラル(送客)エンジン」から「トランザクション(取引)エンジン」へと変貌したことを意味します。YouTubeや画像検索、会話の文脈から直接購買が完結する「エージェント・コマース」の割合は、前年比11倍という驚異的な伸びを示しており、リテーラー独自のUIやECサイトそのものが「不要」になるリスクが現実味を帯びてきました。

「Merchant of Record」を巡る地政学的争い

ここで重要となるのが、売買の責任主体である「Merchant of Record」の主導権争いです。決済までをプラットフォーマーに握られれば、リテーラーは単なる「商品を届けるだけの配送業者」へと成り下がります。Googleが顧客接点とCRMデータを独占するのか、それともリテーラーが自社の存在価値を死守するのか。この「生存競争」において、Walmart等の巨人は独自のデータ戦略で反撃を試みています。

小売の逆襲:Walmartのデータ戦略と「編集力」の強化

世界最大のリテーラーであるWalmartは、プラットフォーマーに顧客接点を奪われないため、物理資産とデジタルを高度に融合させた多角的な戦略を展開しています。

データラボとしてのリテールメディア戦略

Walmartの対抗軸の核となるのが、顧客データと商品データを統合し、メーカーと共有するエコシステム「Scintilla(シンテラ)」です。 Walmartは、リテールメディアを単なる広告枠の販売先ではなく、商品データを磨き上げるための「実験場(データラボ)」と定義しています。Scintillaを通じて、メーカー側に自社商品情報の不備(欠落データ等)を突きつけ、データの研磨を促すことで、AIが正しく理解し「勝手に売れる状態」を創出しています。これにより、膨大な商品データの整備コストをメーカー側に押し戻しつつ、プラットフォームとしての精度を高めることに成功しています。

生活動線の占有と「納得」を生む編集力

また、Walmartはテクノロジーを駆使して顧客の「生活動線」を面で押さえにいっています。

  • 生活動線の占有: 「Walmart+」を軸に、ヘルスケア、金融、そして2025年10月に本格稼働した「オートケア(車検・タイヤ交換)」等、日常のあらゆるモーメントに介入。Google検索を介さない直接的な接点を強化しています。
  • リアルの編集力: 店舗を「モノの置き場」から「スタイルを提案する場所」へ再定義。ラルフローレン等のファッション専門家を招聘し、かつて乱雑だった売り場を「編集されたスタイル」へと刷新しました。単なる安さではなく、店舗での体験を通じた「納得感」で選ばれるリテーラーへと進化を遂げています。

AIの成否を分ける「商品データ」の構造改革

生成AIやAIエージェントがどれほど進化しても、その裏側にある情報の品質が低ければ、正しいマッチングは起こりません。OpenAIがコマース領域で直面した最大の障壁も、リテーラー側の商品情報の不備でした。

AEO(Answer Engine Optimization)と「Jobs to be Done」

今、リテールが取り組むべきはSEOの先にある「AEO(回答エンジン最適化)」です。ここでは、非構造化データをAIが理解可能な構造化データへと変換する高度な処理が求められます。 戦略的価値は、単なるスペック(属性)の記述ではなく、ユーザーの「Jobs to be Done(解決すべき課題)」をデータ化することにあります。

  • 文脈の付与: 「マラソンで足が内側に寄ってしまう」という個人の悩みに対し、その解決策(プロネーション対応)となる靴であることをAIが理解できる形で保持すること。
  • 用途の拡張: 「ケーブルを切るのに最適なキッチンバサミ」といった、従来のカテゴリ分類を超えた「使われ方の文脈」をデータ化すること。

商品情報の整備は、もはやITの課題ではなく、顧客の課題解決に直結する最優先のマーケティング課題なのです。

顧客体験の進化と「信頼(Trust)」の再定義

AIが「正解」を出すことがコモディティ化した世界において、顧客がブランドを選ぶ基準は、効率的な正解から「納得(Conviction)」へとシフトしています。

「納得」を生み出すブランドの成功事例

2026年に向けた変化の兆しは、以下の先進事例に顕著に現れています。

  • JD Sports: 都市部での「スタイル編集」に特化。AIをコミュニティの力や商品の魅力と連動させ、単なる購買を超えた自己実現の文脈を提案しています。
  • DICK’S Sporting Goods: 大型体験型店舗「House of Sport」を展開。クライミングやバッティング等、五感を通じた体験を提供することで、「買う場所」から「スポーツを体験し、納得を得る場所」へと店舗を再定義しました。
  • REI: 消費者協同組合(Co-op)としての信頼を軸に、AIには代替できない「信頼できるガイド」としての役割を強化。気候変動への具体的なアクション等、行動によって信頼を「証明」しています。

これらに共通するのは、テクノロジーを手段として使いながら、最終的には「人間にしかできない感情・情熱・編集」を価値の源泉にしている点です。ラルフローレンがAIを使って伝統的価値を「今の時代の文脈」に翻訳しているように、信頼(Trust)は言葉ではなく一貫した行動によってのみ獲得されます。

日本市場における実装:Lazuli PDPによる商品データ整備の最前線

海外の潮流を日本国内のビジネスにどう落とし込むべきか。報告会では、具体的な実装ソリューションとその実用性が示されました。

Lazuliが提供するPDP(Product Data Platform)

AI活用の土台となる商品データの整備を自動化するため、Lazuliは「データ・ファクトリー」としての機能を提供しています。(一部機能は現在開発中です。)

機能内容・戦略的価値
高度なデータ抽出PDF、Excel、画像等、非構造化データからAIが瞬時に商品情報を抽出
正規化・バリデーション表記揺れ修正に加え、欠落したJANコードの補完・検証を自動化
カテゴリ推定・タグ付けAEOに不可欠な「文脈(コンテキスト)」や属性情報をAIが自動付与
YAMLベースの柔軟性開発者向けの柔軟な設定を可能にし、既存システムとの連携を容易化
API-firstの運用効率ワークフローに組み込み可能なAPIを提供し、運用コストを劇的に削減

商品情報の自動整備は、リテールメディアの精度向上や、AIエージェントによる確実なマッチングを可能にする「相乗効果の起点」となります。

Lazuli PDP:https://lazuli.ninja/ja/pdp

総括:2026年に向けた日本企業のアクションプラン

CES & NRF 2026が突きつけた結論は、「AIの実装なしにリテールの未来はない」という厳しい現実です。意思決定者が直ちに取り組むべきは、以下の3点です。

  1. 「北極星」は顧客の課題解決: テクノロジーの導入を目的化せず、顧客が抱える「Jobs to be Done」の解決を最優先の目的に据えること。
  2. プラットフォーマーとの戦略的共生: Google等のインフラを活用しつつも、顧客接点の核となる「商品データ」と「顧客理解」を自社でコントロールし、主導権を渡さないこと。
  3. 「人間にしかできない編集力」の磨き込み: AIが導き出す「正解」の先に、顧客が「納得」して選べる独自の世界観や信頼関係を、店舗とデジタルの両輪で提示すること。

プラットフォーム主導の購買において、単なる「配送代行業」に甘んじるリテーラーに未来はありません。日本独自の市場環境や商習慣を理解した上で、最先端のAIテクノロジーを自社の「ブランドの意志」というフィルターで解釈し、泥臭いデータの構造改革から着実に実装を進めること。それこそが、2026年のリテール体験を定義する唯一の道です。